19世紀末から20世紀初頭にかけて欧米を中心に流行したアール・ヌーヴォー(Art Nouveau)。
柔らかい曲線的なデザインや耽美的な雰囲気が特徴ですが、どこから生まれたのか。
一般的にはイギリスのアーツ&クラフツがきっかけといわれることが多いですね。
でも、例えばエミール・ガレがイギリスのアーツ&クラフツ的な作品を作っていたかというと、私の知る限り見たことがありません。
アール・ヌーヴォーが流行する以前、ヨーロッパで流行していた芸術様式は主に2つ。
1つはジャポニスム(日本趣味)。「アール・ヌーヴォー」の名称を作った画商サミュエル・ビングはもともとジャポニスムの発展に大きく関与した人物であり、ジャポニスムがアール・ヌーヴォーにもたらした影響はかなり大きいことは間違いないですね。。余白を生かしたり、アシンメトリーな感じは特に。実際、ガラス工芸でもエミール・ガレやウジェーヌ・ルソーがヌーヴォー流行直前にジャポニスムの作品を多く制作しています。
↑ディジョン美術館所蔵品。エミール・ガレのジャポニスムからヌーヴォーへの流行を思わせる花瓶。
もう1つが歴史主義。中世芸術、特にイスラム美術への傾倒です。日本ではあまり知られていないと思いますが、イスラム美術はアール・ヌーヴォーに大きな影響を与えています。エミール・ガレも初期の頃はイスラム様式で名を高めた人物の一つです。イスラム美術も曲線を多用した複雑な美しい鮮やかなデザインが多く、それらの影響は多大に感じられます。
↑1880年頃のイスラムスタイルの花瓶。パリの優れたガラス工芸家Imbertonによる品物。このイスラムスタイルの流行により、ガラスのエナメル彩は大きく発展したとされています。
アーツ&クラフツは直接的にというよりは思想的にという感じなので、実際にデザインとしての直接的影響はジャポニスムや歴史主義(イスラム美術)が大きいと思います。
※トップ画像 By SiefkinDR – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=48363601